ましろ色シンフォニー所感

  • 前置き

ところでこのようなエロゲ紳士しか訪れないような場所に書き記した覚書を進んで見たいと言う奇特な皆様、お菓子と言えば何がお好みだろうか。昨今は時代の流れによりスイーツと一括りに甘いものと定義されていて嘆かわしい限りだが、それは言葉の綾の問題であって本質じゃない。甘いものはいいものだ。疲れた体にもリフレッシュを味わわせる清涼剤であるし、何よりも脳髄を働かせるにはブドウ糖が必要不可欠なのだ。甘さは追及すればそれはそれは麻薬のように甘美なものであるが、結局のところ過ぎたるはお呼びでないもので、摂取しすぎれば糖分過多になって糖尿病他成人病も併発する悪魔の味覚なのだ。
しかしその悪魔の味覚もバケツ一杯の砂糖水を流されればげんなりするものであって、注意しなければいけないのは分量をわきまえても慢性的に摂取している自覚症状の少ないパターンである。甘いものも程ほどにね。

  • 細やかさの素晴らしさ

さてましろ色シンフォニーである。詳しい話のあらすじなどは公式のページで確認するなどで各々に補完してもらっていると言う前提で進めると、ワシの10月期エロゲ戦線において萌えゲーとしての地位を発売前にすっかり確立させ、体験版の段階でキャラクタたちの顔ぶれと属性に心をつかまれた紳士も多かったのではないかと睨んでいるのだが、どうだろうか。
ワシ個人としてはこのエロゲに対しては色々と思うところはある。まずは演出面のインターフェース。ここについては文句の受け付けようもないし、自ずから吐き捨てるつもりもない。むしろ好評と取ってくれても構わないくらいだ。ぱれっと特有の後姿の立ち絵を多用し、アニメ的な動きのある感情表現の演出には目を見張るものがある。特に顕著だったのは冒頭の月のアップから主人公の視点に迫ってくるような視点の急降下だったろうか。アレには正直感嘆の溜息が漏れたものだ。一体どんなスクリプトを組めばあんなやり方ができるのだろうか。その急降下の演出は、物語に惹き込むのにも目新しさを見せ付ける意味でも大いに役立っている。数多の物語で語り継がれてきた、なんとなく何かが動き出しそうな、あの漠然とした予感。それを端的に表しているようで、何とも心地よい。
他に目立ったのは、やはり野良メイドのアンジェだろう。立ち絵で感情表現が豊かにされる大げさな涙と驚きの表情は見てて飽きない。野良なんて座右の如く、誰にでも愛されることが確定されたような、包み隠さない表情の機微が、眺めていて心地よかった。プレイしてくれたユーザーなら共感してくれるだろうとは思う。彼らの面映い学園での日々は演出によって何倍にも引き立っているのだと。それによってストーリーにもさらに華が添えられているのだと。

  • 淡い塗りとつばす絵の融合

その演出によってさらに際立つのが、本エロゲの原画家である和泉つばす女史手掛ける様々なCGの数々である。垂れ目気味なつばす絵の特徴はそのままにしつつも、これまでの女史の功績…具体的にはfengの青空やあかね色…を覆すような素晴らしい質感の彩色が、淡い世界背景をさらに柔らかく見せつけ、それでいつつもエロましいシチュエーションと表情を実現させている。もっと具体的に言えば喘いだ末に意識が飛んだ後の放心した表情などそそるものがある。
原画と塗りに関しては文句の付けようのない、完璧な融合だった。余計な言葉も不要だろう。

  • ましろ色の意味:ネガティブ 染まりやすい淡白な白さ

しかして、個人的に一番のウェイトを締める要素である、肝心のストーリーであるのだが、これは何とも言葉にするのが難しい。ライターが3人であることを鑑みるのは、この際最たる問題ではないだろう。文章力には何の問題も見受けられないし、パラレルとしてのルートの繋がりも違和感なくしっかりしていたと受け取った。それぞれのルートに突入してもキャラクタの描写にブレはなく、出番も見せ場も均等に配分され、魅力的に映っていた。
ではワシの中の何が引っかかっているのだろうか。それはやはり「薄い」なんて印象がそうさせるのだろうか…。
そう、このエロゲは全体的に話が「薄い」のだ。
確かに要所要所のくだりは王道であるし感情に訴えかける部分も多かった。みう先輩ルートなどはエンディングの演出、挿入歌のタイミングも含め反則級だったには違いない。しかしだ、訴えかけるにしても王道で塗り固められてしまっている以上ある程度経験を積んでしまったら、その王道は何よりも映えないエッセンスであり、使い古された表現でしかないのだ。つまるところ要所要所の盛り上げはよろしいものの、話運びが坦々と淡白に進んでいくため、心に残りにくいのだ。もって生まれたセンスに訴えかけるのではなく、元からあったやり方を洗練した印象だった。
個別ルートで比較すれば、一番その傾向が色濃く出ていたのは桜乃ルートだった気がする。あくまで兄妹の関係にあろうとしたのに耐え切れないその葛藤は、あまりにも安かった。もっと背徳感にまみれもよかったのではないかと思えるほどに、互いが歩み寄らなかった。
そう言った淡白な意味でも、この物語は白いのだろう。白い、何色にも染めやすい色。ナニモノにも侵されない無色透明ではなくナニモノにも染まりやすい、白。ましろ色。だがそれは何もこの物語をネガティブに捉えるだけではない。それだけでは飽き足らない。では一体この作品の何が心を掴んで離さないのだろうか…。

  • ましろ色の意味:ポジティブ 甘くて濃い不可侵の白さ

きっとそれは、キャラクタたちが全き正しい純愛を育んでいるからだろう。
一瞬呆けられるかもしれないが、言葉にすればそれしか思いつかない。どのルートも正しく過程を踏んで、互いの気持ちを紆余曲折しつつも確かめ合って、互いの最適な二人の形であろうとしているのだ。もっと極端に言えばカップル成立後の主人公とヒロインの関係がだだ甘くて胸焼けするくらいなのだ。特にメインヒロインである愛理などは、ルートだけに絞れば今年度最高レベルの甘々バカップルぶりを見せ付けてくれたのではないか、と思えるほどである。腕を抱いた程度でによによと擬音が付いてしまうほどに頬を緩めてしまうカップルとしてのやり取りに、親愛以上の保護欲を掻き立てられるのだ。
ただ、その見せ付けるようなだだ甘っぷりにこそましろ色の本来の意味を見出したような気がする。惹かれ合う二人が結ばれた後も互いを埋め合わせるように心と体を重ねていく、カップルらしいやり取りに終始して、結果的に二人は揺らがない、染まらない関係の形を見つけ出していくのだ。これは全ルートに共通していることで、互いを大事にしてきたからこそ生まれたあり方をこれでもかとユーザーに見せ付けてくるのだ。とにかく甘くて濃いましろ色のお菓子のように。大切に大切に準備してきたかたこそ出来上がった完成形が何よりも愛しく感じるのだ。
ましろ色とは、まっしろで揺らがない、甘いものなんだと画面から伝えてきている。そんな気がする。

  • 結び

最終的結論として俗な言葉を放てば、ましろ色シンフォニーは一定の物語に触れた人には新鮮味のない退屈なものに映るかもしれない。淡白なましろ色に染まってしまうかもしれない。
だけどこれは何にも知らない、物語に対する耐性のない人になら限りない純白の純愛で以って心をましろ色に染め上げてくれることだろう。たとい物語に没入する経験が少なくとも、カップルのイチャラブを眺めていれば細かいこともどうでもよくなるくらいの甘さを摂取すれば満足するのではなかろうか。それこそ胸焼けをして行動に支障をきたすくらいに。
ましろ色はネガティブな不協和音もポジティブな柔い音色もまとめてひっくるめてシンフォニーを奏でて、初めてましろ色になるのかもしれない。

  • おまけ

「ぱんつ ぱんつ おにいちゃんのぱんつ」に心奪われて桜乃がましろ色ヒロイン序列一位に君臨した件について。野良メイドも良すぎるけど素直クールもいいよね!